中学3年生の北䑓維心さんが第44回全国中学生人権作文コンテスト広島県大会(広島法務局、県人権擁護委員連合会主催、中国新聞社など後援)が広島県内182校、11178 編の応募の中から優秀特別賞(広島市教育委員会賞)を受賞しました。北䑓さんは所属するインターアクト部で重ねてきた国際交流や平和貢献活動を通じて感じたことをテーマに作文を書きました。本稿では受賞した作文を掲載します。
「茨の道」
みなさんは、日本の外のことについて考えたことがあるだろうか。平和な日本とは違う、他の国のことについて考えたことがあるだろうか。これは、遠く離れたある国で大変な暮らしをする、私たちの友達の話。
私は学校で、ちょっと珍しい部活に入っている。その名もインターアクトクラブ。奉仕活動や国際交流などに取り組む部活だ。
二年前、私たちの学校を三人の中学生が訪れた。彼らの故郷は、日本から遠く離れた、パレスチナという国のガザという街。私たちは学びにあふれた、楽しい一日を過ごした。
しかし、その翌日、私はニュースを見て目を疑った。彼らの故郷・ガザで、戦争が始まったというのだ。彼らは、故郷に帰れなくなってしまった。彼らはパレスチナの近隣の国で、難民としての生活を余儀なくされた。
それでも武田インターアクトは、彼らとの交流をやめなかった。デジタル化の時代、遠い国の人とでもオンラインで話し合える。
月に一・二回のオンライン会議。ある日のテーマは、彼らの希望で「人権」となった。アラビア語で「人権」は「ハクーク・アル・エンサン」と言うのだと彼らは教えてくれた。彼らは、「ハクーク・アル・エンサン」に関する自分の経験や考えを、世界人権宣言と絡めて話してくれた。
あのとき、「天井のない監獄」といわれるガザを出て、日本に来られた中学生はこの三人だけだった。彼らの第一言語は英語ではなくアラビア語だ。それなのに彼らは、人権に関する自分の体験や考えを、英語で流暢に的確に表現してくれた。
彼らは戦争で、あらゆる権利を奪われてしまった。一人の女の子は、「生きる権利」について語った。生きることと言っても、息ができるとか食べ物や綺麗な水があるとか、そういうことだけではなく、家族や友達と一緒にいられるとか、自分の夢を追えるとか、そういった権利も奪われていると彼女は語る。
一人の男の子は、「移動の自由」について語った。三人は今、ガザに帰ることができない。いくら帰りたくても、故郷に帰れない。
「ガザの人々はこの権利を、毎日毎秒否定されているんだ」
「国際的なルールなのに、自分たちはその通りに扱われないのが本当につらい」
彼の言葉の一つ一つが、私の心に重くのしかかる。彼らの話が歴史の教科書の話ではなく、私とほぼ変わらない年齢の子に今、現実に起きていることだとは、とても信じたくない。
彼らの話を聞いて私たちは、人権の重要性を強く感じた。私たちは、彼らの思いを他の人に伝えなければならないと思った。彼らの許可を得て、会議の録画を編集して動画サイトで公開することにした。
動画編集を担当したのは、以前からSNS担当になっていた私だった。一時間半にも及ぶ長い動画ファイルを編集するのは私にとって初めてで、内容も相まって責任を感じた。みんなで彼らの英語を聞き取り、それを日本語に翻訳した。彼らの英語を聞けば聞くほど、同年代の言葉には聞こえなくなる。そして、みんなでまとめた翻訳を参考に、伝えたい部分を切り出しながら字幕をつけた。来る日も来る日も、放課後パソコンに向かった。家に帰ってもパソコンに向かった。彼らの思いを届けるために、パソコンに向かった。こうして完成した十七分の動画。私はやるべきことをやりきった。
私たちは彼らの教育を支援するための資金調達プロジェクトも行っていた。クラウドファンディングと、自分たちの学校や駅などでの募金活動を通して、彼らの教育支援のための資金を集めた。マスメディアやSNSでの発信もあって、目標金額の三百万円に近い、二百八十万円以上を集めることができた。彼らの教育支援への、大きな第一歩だった。
しかし、私はこの成果を手放しでは喜べなかった。少し、考えてみてほしい。最初から戦争がなかったなら、彼らは今頃どう暮らしていたか。もし最初から彼らの人権が守られていたなら、もし最初からちゃんと教育を受けられていたなら、もし最初から友達や家族を爆撃で殺されずに済んでいたなら、彼らは今頃どれほど幸せだったか。
私たちが今回やったことは、つらい現実を少しでも良くしようとすることだった。大きな意義を感じている。ただ、これから必要なのはやはり、人権擁護の輪を、広島に、日本に、そして世界に広めていくことだと思う。人権侵害による苦しみなんて、もうたくさんだ。私は人権を守るための行動を、みんなで一緒に起こしていきたい。社会では人権を守る行動が色々起こっている。ただ、人権を守る道は、決して舗装された平らな道ではない。大きな山の、長い茨の道。逆方向に進んでしまうこともある。道を間違えてしまうこともある。それでも私はみんなで力を合わせて、人権を守るための行動を起こしていきたい。



